元祖「母子家庭」の話は高松にあった。 菊池寛 父帰る

父帰る

大昔に出て行った父が帰ってきた。ただそれだけの話。短い話だけれど、菊池寛の文才がいかんなく発揮されている。まったく無駄がないです。

一家の大黒柱が居なくなった母子家庭は貧しく、母(おたか)は疲れ、一家で心中を試みたこともあった。けれど死にきれなかった。長男(賢一郎)はそんな母を思い、弟(新二郎)と妹(おたね)のために小学校を出てすぐに働く。自分が父の代わりをするんだと。

話の始まりは、それから20数年後の話。3兄弟はそれぞれ職を得て、母と寄り添うようにして暮らしていた。そこへ父がふらっと帰ったきたのだ。高齢となり、頼れる知り合いもいないため、一度は見捨てた家族に面倒を見てもらおうと戻ってきたのだ。

なんとも虫のいい話である。

弟や妹、それに母親は、父親の帰りに戸惑いながらも迎え入れようとする。けれど、長男の賢一郎だけは、父を許そうとしない。そんな賢一郎に対して、父は激しく憤怒する。

賢一郎は、父に向かって冷ややかに言う。

「俺達に父親があれば、8つの年に築港からおたあさん(母、おたかのこと)に手を引かれてみなげをせいでも済んどる。あの時おたあさんが誤って水の浅いところへ飛び込んだればこそ、助かっているんや。俺達に父親があれば、十の年から給仕をせいでも済んどる。俺たちは父親がいないため、子どもの時に何の楽しみもなしに暮らしてきたんや。新二郎、お前は小学校の時に墨や紙を買えないで泣いていたのを忘れたのか。教科書さえ満足に買えないで、写本を持って行って友達にからかわれて泣いたのを忘れたのか。俺たちに父親があるもんか、あればあんな苦労はしとりゃせん。」(おたか、あたね泣いている。新二郎涙ぐんでいる。老いたる父も怒りから悲しみに移りかけている。)

菊池寛「父帰る」より抜粋

この後、5人の行く末はどうなったのだろうか。

気になりますよね・・・。

父帰る。

ぜひ、おすすめします。

ちなみに「築港」ってことでんの高松築港駅の「築港」ですよ。

ではでは

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